きみへのラブレター

登場人物

A♀: あんまり感情を出さない感じ
B♂: 飄々とした感じ

あらすじ

恋人じゃない2人のラブストーリーのようなラブストーリーじゃないような何か

やる前の注意

Aをやる人は、男性の名前を一つ思い浮かべてね!(太郎とか)

台本

B「ねえ、僕のこと、好き?」
A「うん」
B「『うん』じゃなくて、ちゃんと言って」
A「え?」
B「僕のこと、好き?」
A「そりゃあ、好きだよ。好きじゃなかったらこんなに話さないし、わざわざ嫌いな電車に乗って、会いに行ったりもしない」
B「そっか。ありがとう。僕も好きだよ。今週暇なら、また飲みに行こう」
A「行こう」

***

A(M)「彼と出会ったのは、2ヶ月前のことだった。わたしは社会というよくわからないものから落ちこぼれ、平日の昼間から暇を持て余していた。彼も時間だけはある状況で、わたしたちはお互いにとって都合のいい存在だった。昼前に起きて、明け方どちらかが眠くなるまで、彼ととりとめのない話をずうっとしていた。彼と話していくうちに、酒の味を覚え、空っぽだった冷蔵庫は炭酸水でいっぱいになった」

***

B「やあ」
A「久しぶり…でもないね。やっぱり、電車は嫌いだ。OLになって、毎日あの缶詰で運ばれるようになったら、多分一週間で気が狂うと思う」
B「慣れればなんとかなるさ。で、今日はどこに行く?」
A「どこでも」
B「そんなこと言うなよ、何が食べたい」
A「きみのおすすめでいいよ」
B「めんどくさいやつ」
A「だって、この町の店なんか知らないし、ここに住んでるきみが案内する方が合理的じゃない?」
B「まあね。とりあえず歩こうか」
A「そうしよう」

B「ああ、イタリアンがあるね。パスタは好き?」
A「食べられるよ」
B「食べられるかどうかを聞いたわけじゃないけど… まあいいや、入ろう」
A「ごめんね」
B「いいよ」

B「何にする?」
A「そうねえ…」

B(M)「彼女は、メニューを眺めては『これにしようかな、やっぱりこっちかな?』などと言って、結局5分待っても決められていなかった。まあ、仕方がないことなんだと思う」

B「ねえ、僕が適当に選ぶから、文句言わずに食べられる?」
A「うん、大丈夫だよ」

B(M)「そう言うと、彼女は安堵の表情を浮かべた。食べるものを自分で決める、その行為から解放されたからだろう」

B「すみません。ワインの赤と白一つずつ、あとあさりのパスタと、マルゲリータピザと、ソーセージ盛り合わせで」

B「白と赤、どっちがいい?」
A「きみはどっちが飲みたい?」
B「僕じゃなくて、きみは?」
A「じゃあ白で。赤ワインは嫌なことを思い出す」

B(M)「初めて自分で選んだように見えたけど、結局『飲みたくない方』を選んだだけで、『飲みたい方』を選んだわけじゃなかった」

A「パスタ取り分ける?」
B「いいよ、全部食べな」

B(M)「彼女はまた、複雑な顔をして、フォークを手に取った。パスタを口に運ぶその仕草は、周りの人からしたらどこもおかしいところはなかっただろうが、周りの人よりも少しだけ彼女を知っている僕が見ると、ひどく機械的で、美味しいとか、まずいとか、そういう感情は抜け落ちていた」

***

A(M)「食事が終わると、わたしたちは彼の家に行き、昼寝をしたりテレビを見たり、怠惰な昼下がりを満喫した。いつの間にか日が落ちて、カラスの声が聞こえて、そして止んだ」

B「もう8時か。飲みに行く?」
A「いいね、行こう」
B「串カツでいい?」
A「いいよ」

B(M)「聞くだけ無駄なことはもうわかっていたので、店もメニューも勝手に決めた。案の定、彼女は何も言わず、タバコの煙をくゆらせていた」

B「おいしい?」
A「…うん」
B「なら、良かった。―あ、電話だ。ちょっと待ってて、タバコでも吸ってな」
A「行ってらっしゃい」

B「ただいま。もうすぐ僕の彼女が駅に着くみたいだけど、一緒に飲む?」
A「わたしは別にいいけど、彼女が嫌がるんじゃないの?」
B「大丈夫だよ。三人で楽しく飲もうよ」

***

A(M)「彼女は店に入ってわたしを見ると、一瞬だけ嫌な顔をしたのが目に入った。それでも、わたしも彼女もいい大人だったので、言われた通り楽しく酒を飲んでいた。2時間ほど経つと、わたしがいつものように悪酔いをして泣き始めたので、三人で彼の家に向かった。彼は、彼女の目の前で、まるで見せつけるかのようにして、わたしにキスをしようとしたりした。いつもだったら、構わずその場の雰囲気に合わせて恋人のふりをしたけれど、今日はさすがにそうもいかないので、酔っぱらいの出せる限りの力で拒否の姿勢をとった」

B(M)「僕がいつものように彼女の前で他の女に手を出すと、彼女もいつものようにヒステリーをおこした。それでも僕は気に留めないふりをして、あの手この手で迫ってみた」

A「ほんと、やめて。嫌なんだけど」
B「嫌とか言うなよ、傷つくだろ」
A「傷つくのは、きみじゃない」
B「…」
A「ねえ、こんなことして楽しい?大切な人を傷つけて、自分を傷つけて」
B「ああ、楽しいさ」

B(M)「いつもはお互い目を合わせようとしないのに、今日に限って僕の都合のいい相手は都合良く動いてくれず、僕の目と、その奥にあるものを見つめてきた。自分の都合より、僕の彼女の都合を優先しているのは、2ヶ月足らずでわかった彼女の性格からして、当然のことなんだろう」

A「ちょっと、外行ってくるね」
B「……わかった」

A(M)「部屋の外の階段でタバコを吸っていると、叫び声が聞こえた。『ヒステリーの彼女を持つと大変だな』と他人事のようにしていたら、ガラスの割れる音がしたので、さすがに焦って部屋に戻った」

A「すごい音したけど。大丈夫?」
B「僕は大丈夫だけど、こいつが大丈夫じゃない。明日からどうするんだよ、クソ暑いのにエアコンの意味がなくなる」
A「ダンボールで目張りするといいよ」
B「一人じゃできないよ、手伝って」
A「きみも、懲りないね」
B「懲りないさ」
A「きみはそういうやつだったね」
B「ああ」
A「…悪いけど、今日はもう帰るね。楽しかったよ、ありがとう」
B「僕を一人にするの?」
A「一人じゃないでしょう。大切な人を、大切にしな」
B「……わかったよ」
A「さようなら」
B「さようなら」

***

B(M)「『さようなら』という言葉を彼女から聞いたのは、これが最初で最後だった。どちらが言い出したわけでもなかったが、別れ際は『またね』とか『帰ったら電話するよ』みたいな挨拶でしめくくっていた。僕たちの関係が『さようなら』なんて言葉には耐えられないほどもろかったことを、二人とも分かっていたんだろう。アルコールと、中身のない耳障りがいいだけの言葉の上にしか立っていない関係は、現実の前に、いともたやすく崩れ落ちた」

A(M)「わたしはまた、薄暗い部屋の中で、生きているのか死んでいるのかわからない日々を送るようになった。後悔しているかと聞かれれば、しているだろう。彼の恋人のことより、自分のことを考えていれば、あの酔っ払った毎日がまだ続いていたはずだ。それでも、誰かの犠牲の上に、自分が成り立つのは耐えられなかった。だからあの時、わたしは自分の家に帰って、自分の居場所に戻った。彼がどうしているかは、もうわからない。きっと今も酒を煽って、都合のいい誰かといるんだろう。」

B「ねえ、僕のこと、好き?」

B「ありがとう。僕も、きみのこと、好きだよ」

A(M)「だけど、いつのまにか彼はわたしにとって、ただの都合のいい人以上の存在になっていたようだ。自分の気持ちに気付いたときにはもう遅かった。酒が好きだと思い始めた頃には、彼自身のことも、多分、好きになっていたんだと思う」

A「……さようなら、○○○○」